首領(ドン)に迫る~笹川良一 平和のためだね、金を動かすんだよ①
田原総一朗です。今回は既に絶版になってしまい入手困難になっている私の著作の中からお届けします。テレビ朝日「トゥナイト」での対談をまとめた書籍で、昭和57年(1982年)6月に出版された「田原総一朗 首領に迫る」(サンマーク出版)です。サンマーク出版さんのご好意もあり、デジタルでも皆様にお届けできることを嬉しく思っています。
私、田原総一朗が各界の首領(ドン)たちに、気概や日本への思いなどをインタビューして鋭く斬り込んでいく内容です。初回は笹川良一さん。文章の表現など、現在の時代背景にそぐわない部分もありますが、当時の世相を反映するものとして原文のままで配信します。
笹川 良一(ささがわ りょういち)

「右も左もない〝世界は一家〟主義者」を自称。だが世間では、「フィ クサー」「ゴッドファーザー」「黒幕」「右翼拝金主義者」などと呼ぶ。 さて実像はどうか。
明治三二年五月四日、大阪府三島郡豊川村(箕面市)の酒造家の長男 として生まれる。 大正八年、陸軍の各務ヶ原航空第二飛行連隊に操縦 士見習として入隊。 一一年に除隊し、豊川村村会議員となり、政治団 体「国防社」を結成。昭和六年、「国粋大衆党」を結成し、本格的に 民族運動に乗り出す。一四年には、自家用機に乗ってローマへ飛び、 羽織、袴姿でムッソリーニに会見する。快挙とも暴挙とも、また愚挙 ともいわれたが、本人は決死の覚悟だった。
一七年に衆議院議員に当選。二〇年の敗戦でA級戦犯容疑により巣 鴨刑務所入り。入所にさいし東京・銀座をのぼりを立てて練り歩く。 二三年一二月、岸信介らとともに釈放される。 感想を聞かれて「人生 最高の大学の卒業祝いじゃよ」と獄中の苦労は意に介さない。
巣鴨在獄中、モーターボート競走に着目、二六年モーターボート競走法成立と同時にボートレース実現に全力投球し、三〇年には全国モーターボート競走会連合会会長に就任した。三四年には日本船舶工業 振興会(現日本船舶振興会)を設立、会長になる。 これが笹川の今日的 経済基盤であり、振興会(ボート競走の収益金を配分する)をバックに、 各種補助金をあらゆる団体(公共団体という)に振り分けることによっ 隠然たる勢力を保持している。
父の代より資産家であった笹川は商品相場、株式相場にもときおり "参戦。当人は「人助けのために相場を仕方なくやる」といい、「買 い支え」が目的とか。とにかく相場関係で〝ササガワの名が出ると、その銘柄は急騰する。買い本尊としての威光があるのも、"金力"の なせるわざか。
また、親族では、四七年の衆院選で、次男の笹川堯が立候補(落選) したり、四九年の参院選では姪の婿にあたる糸山英太郎が立候補(当選)したりしている。 とくに糸山の場合は"金権選挙と非難され、 良一の弟了平(五七年四月死去)はその件で実刑判決を受けている。 このとき本人は「赤飯をたいて入所を祝った」と、きわめて鷹揚。このほか、国連に七億八〇〇〇万円、海洋博に三〇億円を寄付するとともに、宇宙博を主催したり、対馬沖に沈んでいたロシア軍艦ナヒモフ号(プラチナが積まれているそうだ)を引き揚げようとしたり、話題 にこと欠かない。
さらにテレビコマーシャルにも出演し、「親孝行、一日一善、人類 みな兄弟」の標語をふりまく。テレビ労組や婦人団体から「不快だ、偽善だ、番組買占めだ」と批判されても、「国にかわってワシがやっ ているんだよ」と、平然といってのける。巣鴨刑務所時代から岸信介、そして戦前から児玉誉士夫と交遊があり、これが相まって"黒幕”といわれるようだ。が、昨今のテレビC Mやナヒモフ号引き揚げなど、好々爺として茶目っけたっぷりだ。 笹川良一はこわい人なのか、やさしい人なのか――。
北方領土が返れば、ナヒモフ号も返そう
田原 笹川さん、ずいぶんお若いですね。岸信介さんとか、元の経団連会長の土光敏夫さんとか、”偉い人”ってのは、どういうわけかみんな長生きしますね。
笹川 いや、それはね、長生きするということは、結局、仕事が終わっとらんからだよ。
田原 現役だということですか。
笹川 そうですよ。命がけでやるのが現役でね、みんな命がけでやること知らんから、成功しない。私なんかね、なにやっても成功するでしょ。今年(五六年)のナヒモフ号、私は九十何メーターの海 中に一時間二〇分はいっとりました。
田原 ああ、例の日露戦争時のロシアの巡洋艦。あれはなにかうまくいかなくて、会社が倒産するのではないかと......。
笹川 いや、やってますよ、私がやっています。直轄で。
田原 直轄で、するとサルベージ会社はうまくいかなくて?
笹川 ええ、直轄でやってますけどね、発表しない。
田原 ナヒモフ号は、ロシアのお召艦ですね。それが沈没して、中に宝石、宝物がいっぱいあること になっている。それを会長のところで引き揚げるとなったら、ソ連がだいぶ文句いってましたね。
笹川 そりゃ、文句いうてましたけどね。私はいわせません。というのはね、あれは日本の戦利品ですから、むこうが文句いうてくるということはね、こりゃ、むこうは負け戦だからおかしい。と ころが、北方領土は日本固有の領土です。日本との間に不可侵条約というものがありながら、戦争をしかけてきた。
田原 ありましたね、それは。
笹川 日本はですよ、ドイツから、シベリアを攻めてくれといわれて、そのとき攻めていれば、一 発で攻略できたんですね。こういう交渉もあったにもかかわらず、日本は正直だから、国際法守って、そうして不可侵条約の期間中だから、兵を進めない。ところが、むこうは、逆にね、まだ期間中にもかかわらず、日本が万歳することわかったら、兵を進める。こりゃ、略奪・侵略ですがな。 だから、それを返せといっている。こりゃ、正論ですがな。
田原 ところで、ナヒモフ号ですが、あの巡洋艦、本当に中に宝物がはいってるのですか。 笹川 いや、ソ連では、はいっているという記録がありますよ。だけど揚げてみんとわからん。
田原 あれ、揚げて、どうするのですか。
笹川 えっ?
田原 なぜ、あれ、揚げようとしたのですか、笹川さん。