首領(ドン)に迫る~川上哲治”悪の管理学”なんていうけど、プロは勝たなきゃ②
この対談は既に絶版になってしまい入手困難になっているテレビ朝日「トゥナイト」での対談をまとめた書籍からの抜粋です。昭和57年(1982年)6月に出版された「田原総一朗 首領に迫る」(サンマーク出版)です。サンマーク出版さんのご好意もあり、デジタルでも皆様にお届けできることを嬉しく思っています。
私、田原総一朗が各界の首領(ドン)たちに、気概や日本への思いなどをインタビューして鋭く斬り込んでいく内容です。文章の表現など、現在の時代背景にそぐわない部分もありますが、当時の世相を反映するものとして原文のままで配信します。
川上 哲治(かわかみ てつはる)

長島には喝を入れた、王には理づめで説いた
田原 どういうところが違いますか。川上野球と長島野球というのは。
川上 どちらかというと、パーセンテージというものをそう長島は重視しなかったんじゃないかと思うんですね。その、非常にカンがいいもんですから、ヒラメキといいますかね、直感的なものでうまくリードしていったんじゃないかと思う。ふつう野球はパーセンテージでやっていくということが常識になっとるわけですが、ときどきそれを無視した用兵・作戦が出てね、まあこれもマスコミなんですけど、後半だいぶ叩かれたこともあったんですね。
田原 おやっと思う、マスコミが想像もつかない用兵をやったりするわけですね。
川上 そうですね。そういうことがあったんです。
田原 やっぱり長島さんというのは、選手のときすごくカンがよかったんですか。
川上 ええ。これはもうなんていったって、野球をするために生まれてきたというような素質を持ってましたね。本当にバネはあるし、それから身体が・・・・・・筋肉がやわらかいしね。こうやろうと思えばパッとできるというような。
田原 よく長島というとね、対比的に王と比べられますね。王と長島というのは、どういうふうに違いますか、監督からご覧になって。
川上 その点じゃあね、素質的には王のほうが 少し劣ってますね。
田原 ああ、長島のほうが優れてますか。
川上 もう優れてます。足も速いしね、筋肉も強いしね。その点、王は足は遅いしね、どちらかというと身体のバネは少ないんですよ。
田原 そういえば盗塁が少なかったですね。
川上 足遅いですもん、はい。そういう面から見てね、両方対比してみると、どちらかというと王は、まあこれも球を打つという面では天性のいいものを持っているんですけれども、いちおう自分の打撃を分解しながら、コツコツコツコツと積み上げながらやっていく努力型。長島は持ってる素 質をそのままぶつけていって、そしてこれを自分の努力といいますかね、そういうもので維持していく、長続きさせていくというような型じゃないんですかね。だから極端にいうと、長島は天才型というような感じが、私はしますね。
田原 しかし成績としては、結局王のほうがすごい成績を残したわけですよね。
川上 両方匹敵するんじゃないですかね。王はホームラン。 長島もホームランを打ちましたが盗塁走塁、このほうでもやりましたからね。相匹敵してるんじゃないですか。
田原 例えば監督としてね、天才型の長島と努力型の王をきたえる場合、どういうふうにきたえられたんですか。
川上 これはもう、バッティングでも守備でも、王はどちらかというと、いちいち説明しなくちゃいけないわけです。
田原 細かくやるわけですか。
川上 細かく、こうだからこうだろう、どう思うという具合に納得させていくわけです。 それで、はい、わかりましたといったときには、ズッとやってくれるわけです。長島はね、そういう必要はないんですね。こうやれよ、こうやらなきゃダメだよ、というような形で大丈夫だった。
田原 ピーンとくるわけですか。
川上 はい。そういう形でしたね。
田原 そうすると、王の場合はビシビシと怒っていかないとならないですね、細かく。
川上 いや、逆ですね。王の場合はよく説明して......。
田原 ああ、理づめで。
川上 理づめでいくわけです。それで納得させていくわけです。 長島の場合はね、ミーティングなんかで彼を叱るちゅうかね、彼を槍玉にあげてチームの中に気合いを入れたことがあるんですよ。主力打者はね、「相手のピッチャーは調子がいいから、今日は打てん。 あのピッチャーなかなか球が速くて、打てん」なんてベンチでいうなと。みんなおまえのことを注意して見とるんだから、それを主力打者が打てんなんていったら、だれも打てんようになっちまうじゃないかというようなこ とを、ミーティングの材料にしながら、いったこともあります。